CEDEC 2011 ──2011.09.06〜08──

これまでCESA DEvelopers Conferenceとしてゲーム開発者向けのセッションを中心に開催して来たCEDECは、今回の開催で13回目を迎え、今年からComputer Entertainment DEvelopers Conferenceとしてリニューアル。今年は「CROSS BORDER」をテーマに掲げ、コンピュータエンターテインメント全般の活用に関する内容へと拡大して開催され、最新のコンピュータエンターテインメント開発手法や活用提案に触れる重要な機会となった。
Video Journal 10月号に提供した記事を再構成してレポートする。
(現地取材:秋山 謙一)

ゲーム開発手法やデザインを他分野に生かす

IMG_9979.JPGパシフィコ横浜で9月6日から3日間開催されたCEDEC 2011 開発者向けのカンファレンスイベントCEDEC 2011(主催=コンピュータエンターテインメント協会(CESA))が、今年も横浜・みなとみらいのパシフィコ横浜で9月6〜8日に3日間の日程で開催された。CEDECはこれまで、CESA DEvelopers Conferenceとしてゲーム開発者向けのセッションを中心に開催して来た。今回の開催で13回目を迎えたCEDECは、今年からConputer Entertainment DEvelopers Conferenceとしてリニューアル。今年は「CROSS BORDER」をテーマに掲げ、コンピュータエンターテインメント全般の活用に関する内容へと拡大して開催され、最新のコンピュータエンターテインメント開発手法や活用提案に触れる重要な機会となった。


CEDEC AWORD 2011各部門賞と特別賞、著述賞の授賞式を実施

IMG_0362.JPGCEDEC AWORD 2011各賞受賞者のみなさん。CEDECのセッションはコンピュータエンターテインメント分野へと拡大したが、AWORDはまだまだゲーム分野が中心。今後の選考はより広い分野の視点が求められるだろう。 CEDEC 2011の会期中である9月7日には、『CEDEC AWARDS 2011』の5部門──プログラミング・開発環境部門、ビジュアル・アーツ部門、ゲームデザイン部門、サウンド部門、ネットワーク部門──の最優秀賞の発表と授賞式、特別賞と著述賞の授賞式が、それぞれメインホールで行われた。CEDEC AWARDSは、ゲームソフトウェア自体ではなく、技術面にフォーカスして評価を行い、開発者の功績を讃える目的で実施されているのが特長で、今年で4回目となった。
 各部門最優秀賞の発表に先立ち、特別賞と著述賞の授賞式が行われた。特別賞は、ゲームフリーク 代表取締役の田尻智氏とポケモン 代表取締役社長の石原恒和氏が受賞。遊びの本質を見失わずに、絶えず進化を続ける本格的なゲームデザインをしてきたことが評価された。著述賞は、オンラインゲーム開発技術を取り扱った本格的な技術書を執筆した中嶋謙互氏が受賞した。
 プログラミング・開発環境部門最優秀賞は、Unity Technologiesの「Unityエンジン」開発チームが受賞。アマチュアからプロまで、モバイルからハイエンドまで幅広い範囲で使える洗練されたゲームエンジンを提供してきたことが理由。プラットフォームの多様化が進むなか、習熟しやすく、移植性の高い開発環境を提供してきたことでアプリケーションの可能性や開発者の裾野を広げることに貢献したと評価された。
 ビジュアル・アーツ部門最優秀賞は、カプコンの「ストリート ファイターIV」シリーズデザインチームに贈られた。NPR(ノンフォトリアリスティックレンダリング)において、単なるトゥーンレンダリングをするのではなく、リアルタイムグラフィックスで水彩表現を実現したことを評価。高いレンダリング技術と緻密なシルエットデザインを使ったモデリング技術のバランスにより生み出された効果が、リアルタイムNPR表現の一つの完成形となっていることが、最優秀賞受賞につながった。
 ゲームデザイン部門最優秀賞は、レベルファイブの日野 晃博が受賞。テレビアニメ番組と同時進行でゲームを展開させる「イナズマイレブン」「ダンボール戦機」や、書籍をゲームの一部として利用させるプレイスタイルを実現した「二ノ国 漆黒の魔導士」など、ゲーム内容によってメディア特性を最大限に活用し、メディアミックスを前提とした相互補完的なコンセプトワークをしていることが高く評価された。
 サウンド部門最優秀賞は、ゲーム機で音質とサイズ、デコード速度の問題を解決したCRI・ミドルウェアの「CRI ADX2」開発チームが受賞。ゲーム開発で要求される音質/サイズ/デコード負荷といった全ての要求を満たす圧縮フォーマットを、日本製マルチプラットフォーム対応ミドルウェア「CRI ADX2」をサポートも含めて提供してきたことで受賞。共通フォーマット/コーデックとオーサリング環境によって、作業負荷軽減を実現してゲーム品質向上に寄与したと評価された。
 ネットワーク部門優秀賞は、Amazon Web Services LLCのAmazon EC2/S3が受賞した。ハードウェアとソフトウェアとネットワークを仮想レベルで連結する技術により、ゲームの開発やネット上での提供に必要なCPU能力、ストレージ、ネットワークなどを、高い性能、信頼性、スケーラビリティでオンデマンドで提供するクラウドサービスを実現したことが理由。2011年3月から東京データセンターを開設し、先進的かつ高信頼なクラウド環境を日本国内で利用できるハードルを大幅に下げたとして、評価された。

東日本大震災復興をテーマに「震災復興支援技術特別セッション」を追加

ゲームデザインの応用で自販機を災害情報端末として提案

IMG_0045.JPGCEDEC2011運営委員会の吉岡直人 委員長。岩手出身ということもあり、今回の東日本大震災は他人事では済まされなかったと話した。 今回のCEDECはゲーム市場だけでなく、より幅広い分野に向けた取り組みを強化したことがポイントだ。初日の基調講演でJAXAのはやぶさの事例が取り上げられたのをはじめ、東日本大震災復興をテーマにした特別講演として「震災復興支援技術特別セッション」がプログラムに組み込まれた。初日6日の夕方に行われたセッション『「ゲームデザイン」技術の応用』のセッション冒頭で、CEDEC2011運営委員会の吉岡直人 委員長が、CEDECの「震災復興支援技術特別セッション」に対する取り組みを紹介した。
 「ゲームデザインのテクノロジーを、どう世の中に結びつけていくかという視点で選んだ。私は岩手出身で、今回の震災は人ごとではない。技術に携わる人間として何が出来るんだろう。ゲームデザインは、謎めいた技術だと思っていますが、これで多くの人達に喜んでもらっている現実があります。これが、情報を伝えたり、より良い世界を作ったりするのに、どう役立つのかという視点から話したい。あえて『シリアスゲーム』という言葉は使わないというところが、実はミソです。この言葉を使うには、今回の事例は余りにもシリアス過ぎる。きちんと真正面から捉えて、格好良い言葉をあえて排除して、きっちりとお話ししたい」
 『「ゲームデザイン」技術の応用』のセッションは、吉岡氏がモデレーターとなり、フリーのゲームプランナー/テクニカルサポートとしてゲームメーカーに関わり、フリーライターとしても活動しているO-Planningの大野功二氏と、筑波大学大学院システム情報工学研究科でゲームテクノロジーやコンピュータエンターテインメントの研究を行っている于沛超(ユー・ペイシャオ)氏が登壇した。コンピュータエンターテインメント開発者や研究者が培ってきた「ゲームデザイン」技術を、より災害に強い社会づくりに役立てようという試みを紹介した。
IMG_0072.JPGO-Planningの大野功二氏は、自動販売機を災害スマートステーションとして活用する方法を提案した。 大野氏は「震災コンテンツに応用できるゲームデザイン・ゲームテクノロジーの紹介と提案」と題して講演を行った。ゲームテクノロジーをゲーム業界で培った技術と位置付け、インタフェース(ゲームニクス)、リアルタイムプログラム、グラフィックスとサウンドなどの融合、AR(拡張現実)やセンサー/デバイスなどの利用、ネットワーク技術といったものが活用されていると話した。大野氏は過去に自動販売機のビジネスに携わった経験があると明かし、自動販売機を情報共有端末として活用できないかと提案した。ボタン配置などのインタフェースや、ボタンが押されたときのエフェクトや演出という分かりやすいリアクションといったゲームデザインや、リアルタイムプログラム技術や映像/音楽を同時に扱うプログラム技術、タスク管理やメモリ管理など大規模なシステム管理技術といったゲームプログラム手法などが、自動販売機というビジネス/組込み系の仕事でも役立ったと話した。
 大野氏は「複合的な技術を組み合わせるゲームデザイン・ゲームテクノロジーは、他業種では真似ができない分野である」とし、「出来ない・使えない・役にたたない」と思い込んでいるだけで実は応用範囲が広いのではないかと話した。その上で、自動販売機の高級機は、ディスプレイを搭載し、温度/湿度/照度/人間認知/振動・ジャイロなどの各種センサーも内蔵しており、さらにスピーカーやアラーム、時計、GPS、通信モデムといった機能も搭載していることから、ロボット的な役割を果たしていると紹介。これはまさに大きなゲーム機のようなものだと話した。そこで、自家発電や気圧/水没/地震などのセンサー、カメラやガイガーカウンター、衛星通信やWiFiなど、最小限の機能を追加するだけで安価な災害スマートステーションとして活用できるのではないかと提案した。
 自動販売機を利用することについて大野氏は、飲料販売など単体のビジネスが成立しており、過疎地においても自動販売機は遍在していることを挙げた。つまり既存の高性能自動販売機に災害対応機能を付加するだけで実現でき、新規にスマートステーションを開発して設置するほどのコストはかからないことも、自治体や個人が導入しやすくなるのではないかと話した。
IMG_0102.JPG筑波大学大学院システム情報工学研究科で研究を行っている于沛超氏は、外国人である視点から震災を捉え、リスク共有の必要性を説いた。 于氏は、「RISPEC:リスク認知のためのリスク情報共有プラットフォーム」と題して、街中にあるリスクをどのように認知し共有していくかという視点での取り組みを紹介した。RISPECは、Risk Information Sharing Platform for Earthquake preCautions(地震対策のためのリスク情報共有プラットフォーム)から名付けている。中国人の于氏は、今回の震災を通して初めて地震と津波の怖さを思い知ったと話した。震災前に行っていた防災訓練が、実際にはどれだけ役立ったか疑問が残ったとも話し、今後の防災訓練にはリスク予測/認知と実技/実働訓練が必要ではないかとした。リスク予測/認知には、自分がよく行く場所の周辺におけるリスクの把握が重要と位置付け、リスク認知/共有のためには、現場写真と補足説明、利用者のコメントによる投稿型プラットフォームが必要なのではないかと提案した。
 昨年のCEDEC 2010において、CEDEC AWORD 2010ネットワーク部門最優秀賞に頓智ドットが開発/提供しているセカイカメラが選ばれた。セカイカメラは、iPhoneやAndroidで撮影している映像の上に情報が表示されるARソフトウェアだ。今回、于氏が提案したリスク情報共有プラットフォームはWebベースを指向していたが、リスク共有のためにセカイカメラのようなARソフトウェアと連携できれば、さらに可能性は広がっていきそうだ。

進化する開発者向けカンファレンス

 2009年からパシフィコ横浜で開催されて来たCEDEC。2009年は本格的な有料カンファレンス形式への移行、2010年は国際カンファレンスへの移行を行い、今年はゲーム市場からコンピュータエンターテインメントへと分野を拡大した。運営面で、毎年試行錯誤を繰り返しながらも、着実に内容を充実させて来ている。今年は、プログラミング/デザインの現場向けの内容が多く、参加者も20代、30代の若い世代が積極的に参加していたことも印象的だった。
 今回のCEDECは比較的、開発現場のクリエイター向けの実践的な内容のセッションが多かった。ゲーム分野からコンピュータエンターテインメント全般に範囲を拡大したことでアセット管理やワークフロー改善といったマネジメント面に関する発表は少なめで、開発マネジャーや開発ディレクターにとってはセッションが限られてしまったかもしれない。プログラマー/デザイナー向けになるか、プロデューサー/ディレクター向けになるかは、その年の講演申し込み状況によるところが大きい。最近のCEDECは公募を中心にプロクラムを構成しており、内容も委員会でじっくり審議されてから採択されていると聞く。公募案件の内容次第で偏りが出てしまうのも致し方のないところでもあるが、もう少しバランスをとったほうが、世代間の交流も進めやすくなるのではないかと感じた。
 CEDECは近年、同時通訳を採り入れるなど、海外セッションも増やして来ていたが、今年は海外セッションの数も限定されてしまった。昨年までの同時通訳レシーバーの受け渡しに関する会場の混乱に配慮したり、東日本大震災や福島第一原発事故の影響で海外からの参加減少もあったのかもしれない。しかし、海外でのカンファレンスイベントに参加する開発者が限られるなか、ワールドワイドな視点のセッションが少なくなってしまったのは残念だった。
 開発者を評価するというコンセプトのCEDEC AWORDについては、新しいAWORDへの過渡期に入ったようだ。今年はまだまだゲーム分野中心の選考になっていたが、CEDECのセッションテーマをコンピュータエンターテインメントへと拡大した以上、CEDEC AWORDもより幅広い分野から選考できるようにしていくべきだろう。

(秋山 謙一)

(Video Journal 10月号向け提供記事から再構成)
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