Digital Signage Japan 2011 ──2011.06.08〜10──

2011年6月8日から3日間にわたって幕張メッセで開催された3つのイベントIMC TOKYO 2011/デジタルサイネージジャパン2011/INTEROP TOKYO 2011。デジタルサイネージジャパン2011は、東日本大震災から3カ月しか経たない段階でのデジタルサイネージ関連イベントとなった。ネットワークや電力量といった課題をどう捉えているのか取材してみた。
Video Journal 7月号に提供した記事から再構成してレポートする。
(現地取材:秋山 謙一)

省電力/クラウド化が進む電子広告市場

 6月8〜10日の3日間、幕張メッセでIMC TOKYO 2011/デジタルサイネージジャパン2011(DSJ2011)/INTEROP TOKYO 2011の3イベントが共催された。2008年に映画テレビ技術展がIMC TOKYOに組み込まれたが、映画テレビ技術に関する直接の出展は年々減り続け、映画テレビ技術展が組み込まれる以前のネットワークビジネス系のIMC TOKYOに戻りつつある。今回の会場での放送系の取り組みは、ホールの一角のわずかに2カ所──「ブロードキャストイノベーション」コーナーと、スペシャルステージ2011年地デジ特別企画「完全デジタル化とその先へ」──で行われているといった感じだった。
 3イベント共催とは言え、会場は幕張メッセ4〜6ホールの3ホール分で、275社の出展だった。3日間の入場者は128,128人(2010年131,771人)と、2010年に比べ3,643人下回った。入場者の減少は、3月11日に発生した東日本大震災と、その後の福島第一原子力発電所トラブルによる電力不足の影響は否めない。大震災発生から3カ月。本来であれば、復興に向けた活動も活性化している頃のはずだが、原発トラブルが収まらない現状にあっては大電力消費をするわけにもいかない。大震災の景気低迷に加え、デジタルサイネージについては電力消費が必要なこともあって自粛ムードが強いことも、入場者減少に拍車をかけたかもしれない。

手軽なサイネージ利用を促すクラウド型サービス

 2008年のIMC TOKYOでプレイベントを行い、2009年から専門イベントとして独立したデジタルサイネージジャパン(DSJ)は、今年で3回目を迎えた。当初はデジタルサイネージソリューションの紹介を中心に展開して来たが、デジタルサイネージ導入事例、試行事例など、より具体的な活用方法の提案を中心とした展示内容へと変わって来た。今年は、より簡単にサイネージコンテンツを管理/表示するためのクラウド化とともに、省電力に関する提案がなされていた。
IMG_9753.JPGSCALAと共同出展した日立製作所は、クラウドを利用してより手軽にサイネージ扱えるsign channelを提案。 ホール6に入ってすぐの場所にブースを設けたのはデジタルサイネージソリューションを展開するSCALA。ソフトウェアScalaシリーズで、コンテンツ作成/編集から、ブラウザベースのコンテンツ管理/配信、コンテンツ再生、広告管理までを行うことができる。SCALAの国内正規販売代理店で、SCALAブース内に共同出展した日立製作所は、デジタルサイネージ用マルチメディアコンテンツ管理プラットフォームMediaSpaceを展示。今回、このMediaSpaceを活用し、より手軽にサイネージ展開を可能にするソリューションとしてsign channelを新たに紹介した。
 これまで、デジタルサイネージを運用しようと検討した場合、コンテンツ配信サーバを用意したり、コンテンツ管理用のサーバやソフトウェアを利用する必要があった。そのため、サイネージにコンテンツを表示したいだけなのに、ネットワーク管理スキルが不可欠なものとなり、なかなか手軽に利用ができないということが続いて来た。
 sign channel は1端末あたり月額3,500円〜(税別、別途初期費用)で利用できるクラウド型のサイネージソリューションだ。デザインテンプレートを使いながら、画像や動画、テキストを登録してチャンネルを作成し、それを組み合わせて表示の順番をプレイリストとして登録。表示端末ごとにプレイリストを割り当てることで、自動的にコンテンツ配信と表示が行われる。コンテンツを表示する端末は、インターネット接続環境が必要になる以外は、小型ディスプレイからSTB(セットトップボックス)を使用した大型ディスプレイ環境まで、設置場所に応じてディスプレイサイズを変更できるのもポイントだ。
 1端末あたりの月額利用料金という設定なので、サイネージ効果を見ながら自由にサイネージ端末を増減することができる。これまでのように、サーバ環境を構築してからでないと始められないデジタルサイネージでは、目的や導入コストを確定してから取り組む必要があった。しかし、sign channelというクラウド型サイネージソリューションの登場によって、サーバを用意することなくデジタルサイネージの運用が可能になったことは、試してみたいが導入コストに見合わないと考えていた企業にとっては朗報となりそうだ。

セットトップボックス不要のデジタルサイネージ

IMG_9768.JPGピーディーシーは、業務用VIERAディスプレイのファームウェアを書き換え、STBなしでサイネージ表示するスマートTVサイネージを参考出展。 手軽なデジタルサイネージという意味では、ピーディーシーがSTBを使わないデジタルサイネージを参考出展していた。
 「スマートTVサイネージ」として参考出展したソリューションは、パナソニックの業務用VIERAハイビジョンディスプレイに直接サイネージコンテンツを表示するもの。ディスプレイのファームウェアをデジタルサイネージ対応に変更することで、クラウド型インターネットサービスVIERA Connectから自動的にサイネージコンテンツをダウンロード取得し、スケジュールに従って表示させるというもの。VIERAディスプレイがネットワーク接続可能なことを利用して、ファームウェアを書き替えることでSTBを使わずにデジタルサイネージにも活用可能なことを示した。
 まだ参考出展レベルであり、利用ディスプレイはあくまでも業務用を利用するとのこと。民生用ハイビジョンテレビの活用は考えていないそうだが、これは色再現などの耐久性を考慮しているためだという。民生用ハイビジョンテレビもインターネット接続はしており、技術的には利用が可能だとは思われる。その場合はデータ放送と同じように、テレビ番組と組み合わせたデジタルサイネージ表示といったことも可能になるはずだ。もっとも、テレビ番組画面をはめ込んだデジタルサイネージの実現は、番組の2次利用にあたる可能性もあるので、ハードウェア面よりむしろ法的クリアが必要になりそうだ。

バッテリー利用か電子ペーパーか ──省電力サイネージ

IMG_9777.JPG蓄電サイネージに使用されるリチウムイオン電池ユニット。ソーラーサイネージでも電池ユニットを活用する。IMG_9774.JPG太陽電池パネルを使用したソーラーサイネージ。 さて、大震災発生後は省電力協力のため、東日本のデジタルサイネージや街頭ディスプレイは消されてしまうようになった。3カ月が経過して、ようやく一部が時間を区切って再開するようになってきているが、夏場の電力需要次第では再度消される事態にもなりかねない。サイネージディスプレイが消され、黒い画面がズラリと並んでいることほど寂しい風景はない。動きのあるコンテンツを表示できたり、時間・場所によってコンテンツを変更できるというメリットは、ディスプレイ電源が入っているからこそのメリットであることを思い知らされた。
 今回のDSJ2011では、こうした停電時におけるデジタルサイネージへの取り組みも見られた。ピーディーシーは災害/節電サイネージとして、「蓄電サイネージ」「ソーラーサイネージ」を参考出展。停電時でも表示をし続けられるデジタルサイネージに向けた取り組みを紹介した。
IMG_9760.JPGデジタルサイネージというとハイビジョンディスプレイのように思われがち。大日本印刷は電子ペーパー利用の超低消費電力サイネージを提案。 蓄電サイネージは蓄電用リチウムイオン電池ユニットを使用し、夜間電力により充電。昼間の電力ピーク時に電池ユニットで補助することにより省電力を実現するもの。停電時においても、電池ユニットに切り替えて一定時間のサイネージ表示を可能にしている。これを基本構成と考え、より省電力化を測ったものがソーラーサイネージ。太陽電池パネルを使用して、昼間の太陽光を使用して電池ユニットを充電する。曇天時や夜間には、蓄電サイネージ同様に夜間電力を使用して充電を行うことになる。いわば、太陽電池パネルと外部電源によるハイブリッド型だ。ブースでは電池ユニットの充電に必要な太陽電池パネルを想定した展示を行っていたが、パネルサイズ次第で、晴天時は外部電源を使うことなくサイネージ表示することも可能だという。
 ディスプレイを使用するデジタルサイネージに対して、より省電力で簡易的なサイネージとして「変わるポスター」を提案したのが大日本印刷だ。変わるポスターに使用しているのがツイストボール方式の電子ペーパー。2色に塗り分けた球体の微粒子をシート上に並べ、それを電極で挟んで電圧を加えると、電圧により2 色のどちらかが前面に出るという仕組み。オンデマンド印刷で黒・赤・青・緑の4色まで利用でき、サイズは1030×1456mmまで対応できる。ディスプレイ表示とは異なり、必要に応じて自由にコンテンツを変更することはできないが、看板や標識、広告など固定の情報をアイキャッチしやすくしたいものに活用できる。ブースでは、変わるポスターの表示に乾電池を使用。それでも1カ月近く動作させることができるそうだ。電子ペーパーのため視認性も高く、明るい場所であればバックライトも使わずに表示できることが強みだ。
 特殊蛍光体を用いた湾曲可能な高輝度無機EL を組み合わせれば、より鮮明なポスターにすることもできる。電子ペーパーは薄く、湾曲させることもできるが、高輝度無機ELも湾曲可能なので、円柱表面に設置するサイネージなども実現できそうだ。高輝度無機ELは蛍光灯の60%の消費電力で表示可能であり、点灯中に熱くなることもないという特徴もある。コンテンツ内容次第では、今後活用が進みそうだ。

活用提案が始まった3D デジタルサイネージ

IMG_9780.JPGステレオスコピック3D コンテンツを使用したデジタルサイネージに向けた取り組みも始まった。IMG_9757.JPGエヌジーシーは、DimencoDisplays製3Dディスプレイを使用して、裸眼で視認できる3Dサイネージを提案。不特定多数に向けたステレオスコピック3Dコンテンツの活用が可能になる。 3D対応一体型カムコーダーの登場で、コンテンツ不足に歯止めがかかるかが問われているステレオスコピック3D市場。デジタルサイネージ市場においても、本格的な活用事例は出展されていなかったが、その動向が注目されつつあるようだ。
 ピーディーシーは、パナソニック系であることを強みに、3Dコンテンツ製作、配信、システム構築サービスをワンストップで実現できることを提案。ブースでは、サイネージ映像配信とVOD(ビデオオンデマンド)機能が共存できる3D配信システムHAIを経由して、STB を使いながら3D VIERAフルハイビジョンディスプレイに3Dコンテンツが表示できることを示した。
コンテンツ面では田中印刷所が、人型スクリーンに背面から3DCGモデルをプロジェクターで投影するバーチャルマネキンを活用したサイネージデモを実施。この人型サイネージを3Dコンテンツとして制作することも可能なことをアピールした。DSJ2011で、人型サイネージを3Dコンテンツで展示してみせていたのは、この田中印刷所だけだった。
IMG_9784.JPG田中印刷所は、人型のスクリーンに背面投影するバーチャルマネキンにステレオスコピック3Dコンテンツを活用してデモした。 ピーディーシー、田中印刷所いずれの展示も、3Dメガネ着用の必要があり、通りすがりに気付いてもらうためのデジタルサイネージ広告には向かないだろう。特定の人に3Dメガネを使用してじっくり見てもらうためのサイネージ利用ということになる。はたして、それがデジタルサイネージと呼べるものかは、かなり疑問だ。どちらかというとプレゼンテーションに近いものになるからだ。本来の3Dコンテンツは別にあって、その補助として3D サイネージ広告としてタイアップするというようなイメージだろうか。
 ステレオスコピック3Dで通りすがりの人の気を惹くのであれば、裸眼3Dディスプレイは不可欠になる。この裸眼3Dへの取り組みは、エヌジーシーが行っていた。DimencoDisplays製52型業務用裸眼3DディスプレイBDL5231V-3D2Rを使用してステレオスコピック3Dコンテンツを表示するデモをしていた。Windows上のコントロールツールからは、奥行き感や明るさコントラストなどが調整可能だった。
 実際に裸眼ディスプレイの前を歩いてみると、視野に入った時に奥行きが感じられ、アレッと思って見直してしまう。アイキャッチに3Dコンテンツというのは有りかもしれない。しかし、交通の往来が多い場所では運転者にとっても、それだけ注意を惹くということでもあり、設置場所には気を遣う必要もあるだろう。今年のDSJ2011では、まだまだ提案レベルの3Dデジタルサイネージ。実際の事例が出て来るまでには、もう少し時間がかかりそうだ。

(秋山 謙一)

(Video Journal 7月号向け提供記事から再構成)
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