S3D制作を活性化する手段としての研究会

レッドローバージャパン 大久保洋 取締役 副社長に聞く

2011.03.11

REDROVER_Ohkubo.JPGレッドローバージャパン 大久保洋 取締役 副社長ステレオスコピック3D(S3D)制作をビジネスとして成立させるための取り組みを行っていく3DBiz研究会の活動が本格的に始まった。レッドローバージャパンの大久保洋 取締役 副社長に、3DBiz研究会発足の経緯と今後の活動方針について聞いた。

──3DBiz研究会が立ち上がりましたが。
大久保「会としては、12月末の幹事会会合で、今後の会員募集に必要な会則の承認を行い、2011年1月1日付で3DBiz研究会が発足しました。1月末に会としての幹事を正式に認証し、幹事会社から運営委員を選任しました。運営委員は、会則における定数には達していないので、まずは暫定的にスタートしたという段階です」

──研究会を立ち上げようとしたきっかけは何ですか。
大久保「昨年は3D元年と言われましたが、未だにコンテンツが不足しています。加えて、制作出来るところも限られています。3D対応テレビが商品として登場して来ていますが、コンテンツを制作するという部分を活性化していかないと、テレビの販売も増えないでしょうし、コンテンツがないために3Dの波も終わりかと言われるようになってしまいます。私個人の捉え方としては、3D機能はテレビの機能として標準的になって、視聴したい人が3Dメガネを購入していくのではないかと思っています。しかし、3D撮影において、大量の人材が必要になったり、2Dに比べて2〜3倍のコストがかかるといった現在の特殊な環境では、おそらくビジネスにならない。ここが変わらないと、世の中にコンテンツが普及していかないと思うんです。とは言え、現在は機材も高いし、人材も足りない。3Dコンテンツ向けに制作費を十分にかけられるわけでもなく、みんなが苦労しています。3Dテレビメーカーの3Dテレビ普及戦略に依存しているだけでは、理想的な制作ができる環境にはならないでしょう。撮影から完パケまでシステムとしてワークフローを構築しなければならないのでレッドローバージャパン1社ではできないですし、制作者、撮影機材メーカー、編集システムベンダーなどが連携でき、最終的に人材を育てる部分や機材レンタルが増えるといった環境が揃っていかないと、ビジネスが動いていかないのではないかと感じたのです」

──S3D制作に関係した問い合わせも増えて来ているのですか?
大久保「そうです。2009年末頃から、『3D撮影を試したいが機材コストはどのくらいかかるのか』『機材レンタルできる会社はないのか』『3D撮影に関する教育はできないのか』と、購入する以前にトライアルしたいという話が多くあり、レンタル費用の見積もりといったものもありました。レッドローバージャパンは機材の販売会社でレンタル業はしておりませんし、デモ機はありますが、ビジネスとして貸し出すわけにもいきません。レンタル会社にしても、ニーズがないとレンタル機材を保有するわけにはいかないということになりますし、高価な機材だからこそ使い方の分かっていない人には貸したくないわけです。こうなると、制作環境とコンテンツが、どちらを先にするかという鶏と卵の話になってしまい、ビジネスが回らなくなります。だからこそ、3D制作をするための環境やスキームを構築しなければならないなと感じました。各社が機材や技術を持ち寄って、制作におけるブレークダウンをしたり、そのノウハウを公開したり、セミナーなどで啓蒙したり、必要なら機材を使ったワークショップをやったりできないかと。最終的に必要なら、研究会としてコンテンツを作ってしまえばいいとも考えています」

3DBiz研究会はビジネス視点で取り組む

Inter BEE 2010のキヤノンブースでは、キヤノンの新ファイルベースカメラXF 105を2台使用して収録した3D映像が流されていた。実は、3DBiz研究会正式発足前ではあったが、これが3DBiz研究会の枠組みを活用してコンテンツ制作を行った初めての事例であり、関東学院大学 八景キャンパス内で収録を行ったものだ。

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Inter BEE 2010キヤノンブースでの3D映像は、3DBiz研究会正式発足前であったが、その枠組みを活用して制作。11月上旬に関東学院大学で行った3D収録には、キヤノンマーケティングジャパンが国内発表前のXF 105を提供。アスクは、ビデオアシスト製品QTAKE HDのほか、AJA Video SyatemsのミニコンバーターやZarman製3Dモニターで収録をサポートした。

大久保「現在、3Dコンテンツ制作はみんなが苦労しています。これからも1〜2年は苦労するでしょう。でもこの苦労を乗り越えない限り、次のステップはありえない。3Dコンテンツ制作は特殊なものと考えられていて、このままでは先に進んでいかない。3DBiz研究会は、先に進めるためにも、みんなで集まって試行錯誤しながら解決していきましょうよという提案なのです」

──今後、会員としての参加呼びかけや運営はどうしていくのですか。
大久保「3D映像を制作する立場の人たち──制作者の立場の映像制作プロダクションや放送局、当社のような機材メーカー、ポストプロなどの編集スタジオのほか、CGプロダクションやアニメーションスタジオ、映像機器レンタル会社や、大学・専門学校などの教育機関まで、幅広く声をかけながら運営していきたいと考えています。映像制作は、大手の制作会社はすでに3D映像制作に対応した設備を導入されていますが、制作業務は請負で下にも流れていくので、中小の制作会社の技術が向上するようにボトムアップする必要があります。制作に取り組もうと思っても事例が見つからなかったり、機材をトライアルできる環境もなかったりしますし、3D関連機材のトレーニングも必要になります。3DBiz研究会は、この部分に対して取り組んでいけたらと思っています」

──制作者もメーカーも代理店も関係無く、技術を共有していこうということなのですね。
大久保「そうです。機材メーカーは作ったものを実際に使って評価してもらえばいいし、制作者も新しい機材を活用したり、技術的なノウハウを持つメンバーと一緒に取り組みながら、自分たちのノウハウを構築していけばいい。必要であれば、メーカーや技術を持つプロダクション関係者のセミナーを受けることも可能ですし。レンタル会社にとっても、研究会の中で3D制作に取り組んでいる人の顔が見えて来るので、安心して機材を貸し出すメリットも生じてきます。理想像ではありますが、こうすればビジネスが活性化していくと思います」

──3D制作を扱う他の団体も存在していますが。
大久保「他の団体に比べ、3DBiz研究会は、実際のビジネスに近い視点での活動です。技術研究もやりますし製品評価もしますし。3DBiz研究会に、教育機関に加わってもらっているのも、技術研究部分の取り組みをしていこうということです。映像クリエイターやプロダクションは実制作に忙しいので、3D制作の技術研究をする学校関係者に加わってもらうことで、私たちが機材面でサポートをしながら、現場ではできない研究を教育機関でしてもらい、フィードバックしてもらうことを考えています」

──機材面のサポートとはどういう形になるのですか。
大久保「無償にするか有償にするか、メーカーのトレーニングセミナー受講のうえ割引きにするのか、それは3DBiz研究会としてこうしなさいということではなく、各社のポリシーでやってもらえばいいと思っています。むしろ、3D制作はビジネスが見える形で模索していくことが重要だと感じています。参加するメンバーが、3DBiz研究会をうまく活用して自分のビジネスを回していく。メンバーが、3DBiz研究会に提案して自分のセミナーを開くという方法もあるでしょうし、3DBiz研究会の横の繋がりの中で3D作品を撮るのもありだと思います。必要なのは、技術やノウハウを共有しながらビジネス連携ができることではないでしょうか」

──今後のスケジュールについては。
大久保「研究会としては立ち上がったので、プロモーションをかけながら会員を募っていきます。いずれメンバーが増えてくれば、取り組むことができることも増えるでしょうし、テーマごとに委員会形式に分けて取り組んでいくということも考えてはいます。単なる市場の情報交換ということではなく、『悩んでいる人は集まれ!』という感じで、みんなで悩んでビジネスとして回るように考えて実践していければと思います。まずは、参加いただけるメンバーを増やしていくことですね。単に情報をもらえばいいという立場ではなく、お互いに活用し合って問題解決しながら前に進みたいという人にこそ、3DBiz研究会に参加する意義が見出せるのではないでしょうか」

(秋山 謙一)

(Video Journal 2月20日号向け提供記事から再構成)


取材レポート