Inter BEE 2011 ──2011.11.16〜18──

地上波デジタル放送移行後初めての開催となった2011年のInter BEE。ようやくこれからのデジタル放送を見据えた動きが出始めたようだ。しかし、その評価は、「久しぶりに面白い展示会だった」と言う人と、「あまり見所の無い面白みに欠ける年だった」と言う人と、かなりはっきり分かれたようだ。
Video Journal 12月号、1月号に提供した記事を再構成してレポートする。
(現地取材:秋山 謙一)

フルデジタル制作時代を感じさせた展示会

NAB発表を感じさせない日本独自の方向性

 Inter BEE 2011(国際放送機器展)が11月16〜18日の3日間、幕張メッセで開催された。2011年のInter BEEは地上デジタル放送移行後初めての開催であったが、「久しぶりに面白い展示会だった」と言う人と、「あまり見所の無い面白みに欠ける年だった」と言う人と、かなりはっきり分かれるような印象だった。筆者としては、今回のInter BEEは「久しぶりに面白いものだった」に1票を投じたい。一部地域を除き、地上デジタル放送に移行し、ようやくこれからのフルデジタル制作時代を見据えた動きが出始めたと思う。Inter BEEと言えば、4月に米ラスベガスで開催されるNAB SHOWで発表された製品/ソリューションの日本お披露目的な要素が強い展示会になってしまっていたが、今回は日本独自の制作環境の提案が行われていた。
 数字だけを見れば、登録来場者数30,752人(2010年31,567人)、そのうち海外からの来場者810人(同962人)と、昨年に比べていずれも下回った。出展規模も800社1,329小間(同824社1,345小間)と、昨年を下回っている。しかし、会場内の雰囲気は、過去数年間でもっとも活気のある会期だったように感じられた。確かに、各社のブース規模は小間数を削る方向ではあったが、1〜3小間の小規模ブースが例年よりも増えたことで、幕張メッセ4〜8ホールまで5ホール分を使い切る、ギッシリとした展示会だった。
 昨年までは出展社・出展小間数は多いものの、パビリオン出展での参加も多く、講演用に椅子が並んでいるだけのスペースも多かった。しかし、今年の会場で椅子が並ぶスペースは、プロオーディオ部門のセミナー会場とクロスメディア部門のAsia Contents Theaterだけ。ブース間の通路も狭めで、出展が中止となって、急遽ベンチが置かれているようなスペースもなかった。それだけしっかりとブース出展が行われていたことも最近のInter BEEでは珍しく、これもギッシリ感を演出したと言えるかもしれない。
 振り返れば2011 NAB SHOWで提案された今後の方向性は、「次世代マスター」としての「高解像度4K」と「高品質4:4:4」だった。しかし、日本市場においては、フルHDをベースにRGB4:4:4を考える方が妥当だろうし、より高解像度への移行は機材の減価償却を考慮しながら移行すべきだろうと感じていた。というのも、地上デジタル移行で疲れきった現状の日本市場の制作予算では、4K・RGB4:4:4は余りに敷居が高過ぎると思ったのだ。
SONY.JPGソニー初となる4KデジタルシネマカメラF65も実機を展示。NAB SHOW公開の開発機に比べて、今回の展示モデルは各部をブラッシュアップして一回り小さくなっているのだとか。 半年が過ぎ、Inter BEEを迎えてみれば、NAB SHOWの焼き直し的なイメージは全くなかった。今年のInter BEE 2011の目玉は、やはりカムコーダー環境に尽きる。キヤノンは、米ハリウッドで11月3日(米国時間)に「CINEMA EOS」のブランドを付けた新シネマカメラシリーズを発表し、第一弾の製品C300をInter BEEで初公開することを決めた。11月3日のトピックとしてはもう1つ。RED Digital Cinemaが4K DSMC(デジタルスチル&モーションカメラ)の新ラインアップとしてSCARLET-Xを発表し、後日、西華産業からプライベートセミナーをInter BEE期間中に隣接のアパホテル&リゾート東京幕張ベイにある東京ベイ幕張ホールで開催されることが発表された。今年のInter BEEは直前発表の段階から否が応でも盛り上がるものとなった
 このCINEMA EOSシステムとSCARLET-Xに加え、ソニーのCineAltaシネマカメラF65の国内初披露もあり、まさに次世代高解像度カメラの三つ巴戦という感じだった。制作環境では、アビッド テクノロジーがノンリニア編集ソフトウェアSymphony/MediaComposer/NewCutterにおいて今年2回目のバージョンアップを発表し、64ビット環境となった。インターネット配信分野でも、ローランドがコンパクトなオーディオ/ビデオスイッチャーVR-3を登場させた。これに加えてJVCで4Kカメラの出展があったり、アストロデザインで8K制作環境の提案もあった。まさにカメラから制作、配信、次世代までの提案がなされ、実に内容盛り沢山の展示会となったと言えるだろう。

番組制作のスタンダードに50Mbps/4:2:2がクロースアップ

 毎年、Inter BEE初日午前中に、ソニーが幕張メッセ隣接の国際会議場でブース内容を紹介する記者説明会を開催している。今年の記者説明会で筆者が注目したのは、ファイルベース移行についての話題だった。ソニービジネスソリューションの花谷慎二社長は記者説明会で、放送局へのCMのデータ搬入基準としてMXF OP-1aファイルコンテナが認められたことにより、XDCAMのプロフェッショナルディスクを用いたCM搬入も始まったと話し、放送局のXDCAMシリーズの導入スピードがこれまでのカムコーダーシリーズを抜いて最も速いと明らかにした。日本ではすでに、地上波放送局100局以上、ケーブルテレビ局200局以上で採用されたという。
 2011年前半の映像業界の動向としては、3月11日の東日本大震災の影響でテープ供給に支障が出ていたこともあって、テープ運用からファイルベース運用へと舵を切った放送局やプロダクションも多いと伝え聞いてはいた。このファイルベース制作移行にあたって、プロフェッショナルディスクが保存メディアとしての役割も大きく担ったのかもしれない。いずれにしても、XDCAMの導入が増えてきたことにより、これからは日本の番組制作にも変化が見られそうだ。
SONY2.JPGソニーはアーカイブ向けに光ディスクカートリッジも技術展示。Blu-rayディスクの技術を用いながら、民生品よりも高信頼性を確保し、プロフェッショナルディスクよりも安価に同等の保存性を実現するという。カートリッジには12枚のディスクが収められ、最大1.5TB容量となる。 近年の日本の番組素材だが、H.264系のAVC-Intra 50の50MbpsやAVCHD最高の24Mbpsも利用されてはいるが、XDCAM EXの35Mbps MPEG-2 Long GOPであれば十分な品質なのではないかという認識だった。これが、XDCAMシリーズの普及によって、ニュースの報道取材は別としても、制作費をかけられる映像素材については50Mbps/4:2:2をベースにした素材へと徐々に変わっていく可能性がある。もちろん、35Mbps素材はこれからも十分に活用されるだろうが、より高品質が必要になった時にはXDCAMデッキや新たに開発されたSRMASTERポータブルレコーダーSR-R1を併用するスタイルも採られるのではないかとみる。次世代制作環境に向けて、日本市場も緩やかに高品質化を図っていく段階に入って来たと言えそうだ。
 Inter BEE 2011では新たな魅力的なカムコーダーが次々と投入され、カムコーダー選択の幅は大きく広がった。これらに特徴的なのは、Canon XFもREDCODE RAWもSRMASTERも既存のワークフローを流用できるということ。これまではカムコーダーが出て来ても、編集環境にインポートするプラグインや新たなデッキの登場を待たなければならなかったり、完パケを書き出す方法に悩んだりしなければならなかった。しかし、既存のワークフローが生かせる今回のカムコーダーでは悩むことはない。もはやカムコーダーの開発において、編集環境を無視した製品は成り立たなくなったということだ。それは、制作者がより良いワークフローを自由に組み立てられる時代になってきたということでもあろう。

オールインワン編集環境で迎えるファイルベース新時代

 Inter BEE 2011では、ノンリニア編集を核としたファイルベースワークフローも、いよいよ第4世代へと向かう兆しが見え始めて来たようだ。今回、アビッド テクノロジー、オートデスク、アドビ システムズ、グラスバレーといったノンリニア編集システムメーカーのブースは、いずれも来場者の関心が高く、デモが始まると熱心に聞く姿が見られた。2011年夏に発売された64bit対応のFinal Cut Pro Xが、既存ワークフローで扱うには問題が多く期待はずれだったこともあり、Inter BEE 2011では次世代編集環境の検討を進めている印象を受けた。
 1989年のNABに、Avid/1が登場したことで生まれたノンリニア編集。1999年から2001年にかけてHDオンライン編集/ネットワーク素材共有/ストリーミング対応を果たして、第2世代へと入った。2004年から2005年にかけては第3世代とも言えるデスクトップ環境移行/テープレス対応がなされ、収録から送出まで一貫したファイルベースワークフローが構築された。この第3世代は、低価格の統合製品を牽引したAppleのFinal Cut Studio、ネイティブ編集をウリにしたAdobe SystemsのProduction Premium、新カメラコーデックにいち早く対応して来るGrass ValleyのEDIUS、3Dエフェクト環境ももったAutodeskのSmoke for Mac OS X、ソフトウェア単体で低価格化を進めたAvid TechnologyのMedia Composer/Symphony。現在まで引き続き機能拡張しながらワークフローを充実させて来た。各社とも低価格な編集環境が出揃った今回のInter BEE 2011では、いよいよ次世代の編集環境へと向かい始めた。キーワードは「4:4:4」だ。
 高解像度 大判イメージセンサーのカメラレコーダーが出揃い、制作者の意図に応じてカメラの使い分けが可能になって来た。これらのカメラレコーダーのうち、ソニーのF65、REDのEPIC/SCARLET-Xなどハイエンドな製品に不可欠なものは、やはり「4:4:4」対応だろう。オートデスク製品では常に4:4:4の処理をベースに考えられてきたが、タイムライン編集を行う各社ノンリニア製品については、4:4:4への対応は後回しにされて来た。
 ワークフローから見ても至極当然だ。これまでのように、タイムライン編集でオフライン編集を行って、元データをコンフォームしてからオンライン編集とフィニッシングを行うという流れでは、タイムライン編集段階は軽いデータほど扱いやすいからだ。しかし、ファイルベース化が進み、フィニッシングまでをオールインワン環境でこなすようになってくると、事情は変わって来る。オフライン/オンライン/フィニッシングの境界が曖昧になり、必要に応じてプレビューしていくことが求められる。作業工程に応じてマシンも変わらないので、データ移行する必要もなく、最初から本番データで作業を行う方が効率的ですらある。
 筆者が取材したなかでは、実データを用いて仮編集を行った段階でクライアントにプレビューしてしまい、そこで内容の了解をとってから作り込んでフィニッシングし、最終プレビューでは映像を確認してもらうだけというスタイルを採用したところもある。最初から実データを使っているので、仮編集段階でも最終クオリティに近い映像でプレビューができる。つまり、圧縮映像でオフライン編集結果をプレビューしていた時のように「最終段階ではこうなるはずです」というイメージ伝達も不要になり、最終的にフィニッシングしてみたら印象が変わってしまって作り直すということもない。制作が大幅に効率化し、スムースになったという。もちろん、作品内容によってはこうしたワークフローが採れないこともあるだろうが、オールインワン環境でのこうした効率化は今後不可欠になっていくだろう。

(秋山 謙一)

(Video Journal 12月号、1月号向け提供記事から再構成)
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