【Inter BEE 2011】キヤノンとRED Digital Cinemaが新たなカメラを発表

キヤノンがCINEMA EOSシステムでデジタルシネマ市場に本格参入

Canon.JPGキヤノンがデジタルシネマ市場に向けCINEMA EOS SYSTEMを展開。デジタルシネマ用のキヤノンEFマウントレンズのほか、キヤノンとしては初のPLマウントレンズも投入する。 Inter BEE 2011の会場で最も注目度が高かったのは、やはりキヤノンの新ブランドCINEMA EOSシリーズだ。まずスーパー35mm相当のCMOSセンサーを搭載した新しいフルHDデジタルシネマカメラC300を投入し、来春にはデジタル一眼ベースの4Kデジタルシネマカメラを投入する予定だ。
 デジタル一眼レフカメラEOS 5D Mark IIが登場して以降、デジタル一眼ムービーを活用した制作が普及してきた。しかし、画質を選択できなかったり、長時間の撮影には熱暴走対策が必要になるなど、デジタル一眼の付加機能に起因するデメリットもあった。キヤノンでは、ハリウッド制作者とのコミュニケーションを図りながら、ビデオ制作者の視点から新たなビデオカメラを開発。CINEMA EOSシリーズは、ハリウッドでのデジタルシネマ制作の活用を視野に入れて展開する新シリーズとなる。
 CINEMA EOSシリーズは、カメラ本体だけでなく、キヤノンEFマウントとPLマウントのシネマレンズも同時に展開していく。NAB SHOWで見られたPLマウントレンズは、この布石であったとも言えよう。キヤノンEFマウントのレンズ群は、EOS用のものが各種出揃ってはいる。しかし、EOSレンズは、絞りはカメラ側の自動調整であったり、フォーカスリング位置がレンズによって異なり、レンズ径もまちまちだ。レンズを交換しながら、シネマ用にフォローフォーカスなどを活用して撮影するには、スムースな運用ができない。新シネマレンズでは、前玉レンズ径を統一し、フォーカス/アイリスリングも位置も同じにしているほか、フォローフォーカス用のギアをリングに刻んである。シネマギアを取り付けた運用を考慮した作りとなっているわけだ。
Canon2.JPGInter BEE初日から新デジタルシネマカメラC300は大人気。じっくり見たくてもなかなか傍に近寄れない状態が続いた。 新デジタルシネマカメラC300は、業務用ビデオカメラXFシリーズの記録コーデックCanon XFコーデックとコンパクトフラッシュ記録をそのまま流用した。最高画質での収録時には、50MbpsのMPEG-2 Long GOPコーデックで、MXFフォーマットに記録される。カラーサンプリング方式は4:2:2を採用している。これに加えて、デジタルシネマ撮影向けにCanon Logガンマで記録することも可能になっている。
 気になるのは、ハリウッドのデジタルシネマ市場に向け投入するのに、XFシリーズの最高50Mbps・8ビット記録で良かったのかという点だ。キヤノンとしてはXFシリーズの技術をそのまま活かしたかったのだとは思うが、時代はより高画質記録に流れつつある。せめてデジタルシネマ向けに100Mbps/10ビット記録を追加採用できなかったのだろうか。加えて、これは余談になってしまうが、現状ではCanon Logガンマ記録をしたものと通常記録したものは、中身のメタ情報を読まないとファイル名では判別できないとのこと。撮影状況によっては、明らかに画質の異なる映像が混在する可能性もあるので、Canon Logガンマ記録の有無はファイル名で分かるようにしてもらいたい。
 とはいえ、スーパー35mm相当のイメージセンサーを搭載したデジタルシネマ専用機を、レンズ群とともに展開していくという英断を下したキヤノン。C300を公開したブースは、初日は近寄るのも大変な混み様で、2日目と最終日も常に人の壁に阻まれるような状況だった。XFシリーズの大判センサービデオカメラとして捉えれば、テレビ番組派生の映画などには活用がしやすそうな印象もある。同時にキヤノンの今後の製品展開も気になるが、筆者としては、交換レンズ型業務用XFシリーズを次のステップとして投入してくるのではないかと予想する。

RED Digital CinemaがEPICと使い分け可能なSCARLET-Xを発売

 Inter BEE 2011で注目されたもう1つのカメラは、RED Digital Cinemaの4K DSMCの新ラインアップSCARLET-X。11月3日(米国時間)の発表とともに「RED Digital CinemaがついにSCARLET-Xを発表したぞ!」「おそらくInter BEEの西華産業ブースで見られるぞ!」と期待感が高まっていた。
 SCARLETの初期コンセプトは、2/3型センサーを使用する3KのDSMCだった。REDは、HDカムコーダーを使用したデジタルシネマ制作を変革する存在として2010年にSCARLETを投入することを予告していた。しかし、キヤノンEOS Mark IIの登場もあって、時代はAPS-Cサイズセンサー搭載のムービー収録機能付きデジタル一眼によるお手軽収録に興味が移ってしまっていた。SCARLETは、ビデオカメラ汎用サイズのイメージセンサーで3Kを実現するDSMCとして投入するタイミングを、逃してしまったのである。REDはSCARLETの開発を止め、コンパクトな筐体を持ちながらも、より高解像度4K DSMCであるEPICにモデル吸収したはずだった。
RED2.JPGRED Digital Cinemaのテッド・シロヴィッツ代表が来日。2日目午後に開催された西華産業プライベートセミナーでSCARLET-X実機を初公開した。 CMやショートムービーの制作などでデジタル一眼ムービー収録が普及するにつれて生じるのは、変更できない画質や長時間撮影における熱暴走といったデメリットだ。EPICが登場しても、より手軽な価格帯で新たな映像表現を可能にしたはずのSCARLETを惜しむ声は絶えなかった。そんなこともあって、11月3日の発表で「待ってました」と期待に胸を膨らませた人が多かったのも無理は無いだろう。しかし、SCARLET-Xを見ようと会場を訪れてみれば、西華産業ブースのショーケースはSCARLET-Xが入るであろうスペースはもぬけの殻。EPICと関連製品しか展示していない西華産業ブースに、REDのTed Schilowitz(テッド・シロヴィッツ)代表も初日から訪れていたが、空のショーケースに「こりゃ、SCARLET-Xは持って来れなかったんじゃないか?」とその場にへたり込んでしまいたくなるほどにガッカリした人も多いと思う。ブースには、会期2日目となる11月17日の14時から、東京ベイ幕張ホールで行う「RED Digital Cinema社プライベートセミナー」のポスターも張られていたが、そのセミナーの内容もEPIC関連の話題として案内されていた。
 11月17日のプライベートセミナーは、EPIC関連の話題であってもREDの動向を知りたいという人を中心に集まっていた感じだった。このセミナーでシロヴィッツ氏は、ようやくSCARLET-Xの実機を公開。実際にSCARLET-Xで撮影したフッテージでデモも行った。その後、SCARLET-Xがブースに到着したのは、2日目終了1時間半前の16時過ぎだ。SCARLET-Xを2日目夕方になってようやくブースで披露したのも、チタンマウントモデルを11月17日に米国で先行発売するために、米国発売のタイミングに合わせたいということらしかった。
RED.JPG初公開されたSCARLET-Xはチタン製キヤノンEFマウントモデル。オートフォーカスにも対応している。日本で公開とほぼ同時期に米国市場では出荷となった。 さて、REDが新たに設計変更をし直したSCARLET-Xは、本体の色はグレーで、レンズマウントはキヤノンEFマウントとPLマウントの2種類。それぞれのマウント素材にチタンのものとアルミのものがあり、計4モデルのラインアップだ。EPICと全く本体形状を持ち、EPICと同じ5Kセンサーを搭載している。ダイナミックレンジもラチチュードもEPICと同一だが、可変フレームレート撮影可能な範囲が異なっている。具体的には、5KフルフレームでSCARLET-Xが1〜12fpsなのに対し、EPICは1〜120fps。3KではSCARLET-Xが1〜48fpsなのに対して、EPICが1〜200fps。SCARLET-Xが1080pで1〜60fpsに対して、EPICは2Kで1〜300fpsといった具合だ。加えてSACRLET-Xには1Kで1〜120fpsの撮影も可能になっている。EPICのハイスピード撮影に比べれば、SCARLET-Xはかなり限定的なスペックになっているが、同一筐体・同一センサーを採用していることもあり、使い分けて欲しいということだろう。
 ちなみに、RED ONEの可変フレームレート撮影範囲は4Kで1〜30fps、3Kで1〜60fps、2Kで1〜120fpsだ。RED ONEを4K撮影で使っているような場合は、SCARLET-Xに置き換えることも可能だろう。2KでRED ONEを使っている場合は、可変フレームレート撮影範囲がRED ONEの方が広いので、通常撮影をSCARLET-Xで、ハイスピード撮影をRED ONEでと使い分ける必要が生じそうだ。このあたりのスペックは、RED ONEの後に、進化したEPICを登場させ、その後に投入したSCARLET-Xだけに、RED ONEもEPICも生かせるようなスペックにバランスさせなければならなかった苦労が見え隠れしていると思う。
 本格デビューを果たしたSCARLET-Xだが、HD1080p撮影であれば、通常のビデオカメラの可変フレームレート撮影範囲を押さえている存在だ。REDCODE RAWの現像処理は必要になるが、ビデオカメラを越えた表現が必要な場合には有効に使えそうだ。今回、プライベートセミナーでは、広告ビジュアル制作事業を行っているアマナ(東京都品川区)の宮原康弘氏が、広告の静止画カットをEPICの動画から切り出す手法を紹介していた。広告ビジュアルの撮影においても、SCARLET-Xは活用が進んでいきそうだ。

(秋山 謙一)

(Video Journal 12月号向け提供記事から再構成)
VIDEOJOURnAL.png

ページの先頭へ


展示会レポート