2011 NAB SHOWレポート ──2011.04.09〜14──

NABshow_logo.gif米ネバダ州ラスベガスのラスベガス・コンベンションセンターで、2011年4月9日から6日間にわたって全米構想機器展NAB SHOW(主催:全米放送事業者協会(NAB))が行われた。ソーシャルメディア時代がいよいよ本格的に始動した2011年、撮影環境、編集環境、配信環境はどのような進化を見せたのか。
Video Journalに提供した記事から再構成してレポートする。
(現地取材:Ken Akiyama)

次世代マスターへの取り組みが加速

LVCC.JPGラスベガス・コンベンションセンターのサウスホール入口。震災直後ということもあって、日本人の姿は少なめ。しかし、会場内は新たなワークフローを求めて、多数の人が訪れた。展示2日目の4月12日の段階で、登録入場者数は92,708人に達した(昨年最終実績88,044人)。
 2011 NAB SHOW(全米放送機器展、主催:全米放送事業者協会)が、4月9〜14日の6日間の日程で、ラスベガス・コンベンションセンター(米ネバダ州)で開催された。デジタル一眼ムービーの普及やソーシャルメディアの活用が進み、映像制作の幅が広がりを見せるなか、映画・テレビ番組・CMのワークフローもまた、コストを重視しながらも、より高画質を指向していく新たな取り組みが始まったようだ。
 各社のプレスカンファレンスの開催状況だが、リーマンショックによる2008年後半からの予算縮小傾向は、すでに一段落した印象だ。以前のように各社がプレスカンファレンスを乱発して資料を配りまくるということはなくなってきた。しかし、発表する内容に応じてホテルのボールルームを使用したプレスカンファレンスも再開してきており、米国の景気は徐々に回復してきていることを感じさせた。
 これまでのワークフローは、リニアワークフローからノンリニアワークフローへ、ビデオテープの延長線上でファイルベース化を進めながら、より高画質を求めていくものだった。しかし、REDやデジタル一眼の大型イメージセンサーの映像利用が進んできた現状にあって、ようやくフィルムを超える高解像度・高画質のファイルベースマスターが必要になってきたと言える。これまではフィルム制作のファイルベース化として、ハイエンド制作で検討してきたものであったが、誰もが大型イメージセンサーを扱うことが可能になった現在、ファイルベースを元にした新たな次世代ファイルベースワークフローの構築が始まった。
 今年のNAB SHOWでは、ソニーがHDCAM SR のRGB4:4:4制作をファイルベース化するHDMASTER を推進し、パナソニックもAVC ULTRAへの取り組みを紹介するなど、フルHD 4:2:2を超える高解像度・高画質にむけた次世代マスターへの取り組みが見られ始めた。それも、限られた予算をうまく配分し、ネットワーク環境も利用しながら、より効率的に運用できる環境の構築だ。新たな映像制作ワークフローの胎動が始まった年となったようだ。

次世代環境を考える好機に

 こうした次世代マスターへの移行は、日本の制作環境にも大きく影響を与えそうだ。3月11日に発生した東北地方太平洋冲地震、その後の福島第一原子力発電所トラブルなど未曾有の災害が相次いだ。2011 NAB SHOW会場で聞いてみても、直接/間接を問わず、少なからず各社とも部品調達に影響を受けているようだ。日本の経済活動もかなり停滞している状況であり、映像制作でも長期的に運用でき、よりコストパフォーマンスに優れたワークフローが必要になってきている。ACジャパンのCMを連続で絶え間なく流す必要があるほど、制作が落ち込んでいる現状にあっては、これまでのように大規模な予算を獲得しながら、現状の使用機材/ワークフローの一部を見直していくこともしにくくなっている。
 そんななか開催された2011 NAB SHOWだが、高解像度・高画質のファイルベースマスターへの胎動は、ワークフローを見直さざるを得なくなった日本にとっても、ある意味チャンスではないだろうか。テープに縛られてきたワークフローを見直し、ファイルベースを基本とした次世代ワークフローに向けたビジョンを検討し、どう実現していくか──。折しもファイルベース制作への移行が進み、CM搬入/番組交換基準においてもファイルベースでのやりとりが可能になった現在、本格的に次世代ファイルベース環境を見つめていく時期でもある。まさに正念場を迎えているとも言えそうだ。

ファイルベースワークフロー:高解像度とリグレス3Dの取り組みに2極化

 2011 NAB SHOWにおけるカメラ関連の各社の取り組みは、大きく分けて2つの方向性が見られた。1つは高解像度・高画質に向けた取り組みであり、もう1つは3Dリグを使用せずにステレオスコピック撮影を行うリグレス3D収録の取り組みだ。
 2011 NAB SHOWは、高解像度・高画質マスターを使用した次世代ファイルベース制作の胎動が始まったコンベンションとなった。これまでハイエンド制作に利用が限られていたRGB4:4:4を活用し、4K解像度をマスタリングの標準に据えるというものだ。ハイエンド制作だけでなく、通常の制作においてもより手軽に4K解像度やRGB4:4:4を扱えるようにするためには、現在のフルHDもサポートしながら活用できるコーデックや収録機材が必要になる。2011 NAB SHOWにおいて、この課題に対して、ソニーとパナソニックが方向性を示したことで、より現実的にワークフローを検討することが可能になって来た。

3D対応カメラ:ステレオスコピック3Dの幅を拡げる3D対応カムコーダー

 2009 NAB SHOW において、頑丈な3Dリグを用いたステレオスコピック3D撮影が再脚光を浴び始めてから2年。S3D関連の取り組みは、毎年進化し続けてきている。昨年は、3Dリグの小型化や編集作業の改善に力を入れた取り組みが見られた。
 そして、3D対応ハイビジョンテレビが量販されるようになった今年。より多くのコンテンツが求められる時代になって、S3D撮影部分に再度焦点が当たった形となった。多くのコンテンツを誰もが撮影できるようになるためには、より手軽に撮影できるようにする必要が生じた。さらに、映画だけでなく、スポーツイベント中継や企業映像などコンテンツの幅を拡げるためには、リグを使わずに機動性を生かした撮影ができることも求められた。
 このような背景もあり、今年の2011 NAB SHOWでは、各社から3D 対応カムコーダーが出展された。もちろん、自由度の高いS3D 撮影をするためには3Dリグを用いる必要があるのだが、お大型の3Dリグをスペース的に設置できない場合や格闘技などで三脚設置すら難しい場合、3Dリグで視差調整を厳密に行うための技術者が不足している場合などにおいて、手持ちや肩乗せのカムコーダーで3D撮影ができるようになることは、確実に3Dコンテンツの幅を拡げそうだ。

高精細カメラ:4K以上のイメージセンサーを使用して高画質化が加速

 マスタリングを高画質化するには、収録映像段階で高画質にすることも欠かせない。2011 NAB SHOWにおいては、4K RGB4:4:4マスタリングに焦点が当たるとともに、高精細・高画質を狙い4K解像度を超えるイメージセンサーを持つカムコーダーも各社から登場し始めた。

カメラ関連:高画質ハンディやスーパースロー3Dなど新提案も

 2011 NAB SHOW では、RGB 4:4:4 マスタリングとリグレス3D ばかりが注目されたわけではない。従来の撮影をより手軽に、より高品質に行うための新カムコーダーやソリューションの提案が見られた。

編集システム関連:入出力カード、編集ソフトウェアの最新版が登場

 これまでも着実に進化してきたノンリニア編集分野だが、全ての製品でRGB 4:4:4マスターを快適に扱えるようになるかはまだ未知数だ。しかし、入出力カードを中心にその準備は着々と始まっているようだ。2011 NAB SHOWでは、ビデオ入出力部分が大幅に強化された。編集ソフトウェア関連は、Adobe SystemsとAutodeskがそれぞれ最新版を公開。Avid Technologyも次世代製品の機能をテクノロジープレビューした。

(Ken Akiyama)

(Video Journal 5月号向け提供記事から再構成)
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